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昨年の税制改正大綱では、贈与税の非課税措置が問題である点について言及されました。
昨今暦年課税(後述)が廃止されるのではないかといった噂があることから、
今年の税制改正大綱でどういう方針が示されるか注目されています。

今回は贈与税の仕組みやその問題点、
そして現在内閣府の相続税・贈与税に関する専門家会合で議題となっている内容の概要をお伝えしようと思います。

※こちらの投稿はできるだけわかりやすいよう簡単な表現で記載しています。詳細は、内閣府・国税庁等のWebサイトでご確認いただくか、税理士事務所へお問合せください。

贈与税とは

贈与税とは個人から贈与により財産を取得したときにかかる税金です。
課税方法として「暦年課税」と「相続時精算課税」の二つの選択が認められていますが、
相続時精算課税を選択した後に、暦年課税に戻ることは認められていません。

暦年課税は、1年間に贈与を受けた財産の合計額から110万円を差し引いた残りの額に対して税金が発生します。
(残額に対して累進税率が適用されます。)

一方、相続時精算課税とは贈与者ごとに1年間に贈与を受けた金額の合計額から特別控除(累積2500万円まで)を差し引いた額に対して20%の税率を掛けて算出されます。これは「相続時精算」と名がついている通り、一旦20%の税率で税額を計算しますが、相続時に累積贈与額を贈与時の資産の価格で、相続財産に加算して相続税を課税する仕組みなので、相続税の前払いのような性格を有しています。

贈与税の問題点

相続税・贈与税の課税方式について、問題となっているのは主として以下の二点です。

1.若い世代へ資産移転が進みにくいこと

現行制度では「年間110万円の非課税枠内で贈与を続け、親世代が亡くなった後に生前贈与しきれなかった部分を相続する」という行動を促す仕組みとなっています。
その為、若年世代へ資産が移転しにくい状況にあると問題視されています。
(専門家の間では、いつ贈与をするかで税負担が異なることから、この問題を「資産の移転の時期の選択に中立的でない」と表現しています。)
仮に、今贈与をしても相続時でも税額が同じだとしたら、高齢者世代は「早く資産を移転して若い世代に資産を使ってもらおう」という動きになるかもしれません。

2.格差が固定化すること

格差の固定化とは「富裕層はより裕福になり、低所得者層はより貧困になって困窮する」という状況を指し、政府も問題視しています。
相続税や贈与税は「資産の再配分(=格差の是正)」を期待されている税金です。
しかし、現行制度では、例えば110万円の枠内で贈与をし続けると全く課税がされない等、富裕層世帯が相続税・贈与税対策して税負担を軽減できる仕組みになっています。

諸外国の贈与と税金

我が国以外の諸外国ではどうでしょうか。
アメリカでは贈与時・相続時の双方で、生涯にわたる財産の移転額を累積して課税する制度が採用されており、贈与税・遺産税(相続税に相当するもの)で税率は同じです。
また、フランスでは贈与時・相続時の双方で過去15年間の財産の移転額を累積して課税します。
ドイツも同様に過去10年間の財産の移転額を累積して課税する仕組みを採用しています。

このように、諸外国ではいつ贈与をしようと税額が同じになる(資産移転の時期の選択に中立的)な制度設計を行っています。ちなみに、日本では相続時から遡って3年前までの贈与財産は相続財産に含まれるという制度は存在します。

暦年課税が廃止になるという噂について

内閣府の相続税・贈与税に関する専門家会合では上述した問題点の解決に向けた議論が行われているようです。冒頭で暦年課税が廃止になるかも、という噂がある話をしましたが、これは暦年課税が資産移転の時期の選択に中立的ではないから廃止されるのでは、という考えから出たものと考えられます。(ちなみに、相続時精算課税制度は、選択後においては、資産移転の時期の選択に中立的と言われています。)
しかし、この会合の会長である中里氏は9月16日の総会で「そのような議論(暦年課税を廃止するという議論)は行わない」と明言されています。

相続税・贈与税に関する専門家会合での検討事項

会合で検討されていることは、主として以下の3つです。

1.相続時精算課税制度の使い勝手の向上

相続時精算課税制度は資産移転の時期の選択に中立的である制度ですが、その利用は減少している現状にあります。その理由としては、相続時に資産の価値が減少していたとしても贈与時の価値で課税されてしまうことや、選択後は少額の贈与でも申告が必要になってしまうなど、その使い勝手の悪さが挙げられており、使い勝手の向上に向けて話し合いが行われています。

2.暦年課税による相続前の贈与の加算期間の見直し

アメリカ、フランス、ドイツなどの例を挙げましたが、相続前贈与の加算期間を延ばせば資産移転の時期の選択に中立的になるため、現在3年とされている期間を延ばすことの検討が行われています。(ひと昔前までは3年まで遡ることが限界であるとされてきましたが、デジタル技術の発展に伴い、加算期間を延長する方向が模索されています。)

3.各種贈与税非課税措置の在り方

ここでは取り上げていませんが、贈与税には教育資金や結婚子育て資金、住宅取得資金について非課税措置が設けられています。適用件数の減少という背景があることから、全体的にこれらの制度について、格差の固定化防止の観点を踏まえて検討が行われています。

贈与税改正の議論は若年層に早く資産が移転し、その資産を活用してもらうことで、経済の回復を促したい政府の思惑の一つでもあると考えられます。また、経済格差が教育格差を生み出しているデータなどもあり、教育格差の要因の一つとして見られている側面もあります。
今後、転換期を迎える贈与税です。来月発表される税制改正大綱にどのような内容が盛り込まれるのか注目していきたいと思います。

参考資料:内閣府公表・会議資料「相続税・贈与税に関する専門家会合2022年度」第2回